緊張の正体

スポーツ

みなさんがこれまで生きててきた中で、一度も緊張をしたことがないという人は少ないんじゃないでしょうか?学生の頃なら受験前、大きな大会、大人になってからは会議やプレゼン等、これまで多くの緊張する場面があって大人になってこられたと思います。私も過去にアスリートとして多くの大会、試合を経験してきて多くのプレッシャーと闘ってきました。
今回はそもそも人はなぜ緊張するのか?プレッシャーがいい方に働く人とそうでない人の違い、体に起きる変化などを紹介していこうと思います。自身の経験も踏まえてプレッシャーとの向き合い方等も紹介できたらと思います。


そもそも人はなぜ緊張するのか?

自分だけなぜこんなに緊張するのかと思っている人もいるかもしれませんが、人は緊張しやすい生き物です。人類の82%は緊張しやすいタイプとも言われています。人は緊張するのが当たり前で緊張は必要なものです。ヤーキーズ・ドットソンの法則というものがあり人間は「罰やストレス、緊張などの不快なものが一定量あった方が、パフォーマンスは上昇する」という法則があります。この一定量というのがポイントであり、この不快が強すぎても弱すぎてもパフォーマンスは低下してしまいます。
つまり敵は「過緊張」の状態であり「適正緊張」の状態は私たちのパフォーマンスを向上してくれる最大の味方になってくれているんです。この「緊張は自分の味方」ということを知るだけでパフォーマンスは上がります。アスリートの多くは「緊張するのが当たり前」「緊張は必要なものだ」と考えています。


緊張の原因

人が緊張する原因は科学的に分析すると3つの要因からくると言われています。
それは「交感神経が優位」「セロトニンが低い」「ノルアドレナリンが高い」という3つになります。これらのことを一つひとつ説明していこうと思います。


副交感神経と自分がコントロールできるもの

人間には昼の神経と呼ばれる交感神経と、夜の神経と呼ばれる副交感神経があります。この二つの神経を合わせて自律神経といいます。
この自律神経が強く影響を与える主要な5つの要素があり、それは血圧・体温・心拍数・呼吸数・筋緊張の5つになります。その中で人間が唯一コントロールできるものがあります。それが呼吸です。よく昔から緊張した時に深呼吸しなさいと言われたことがあると思うんですがこれは本当にその通りで科学的にも証明されています。この時に重要な法則があり副交感神経は息を吐いている時に活発になり、逆に交感神経は息を吸っているときに活発になると言われています。深呼吸をするときは吸うよりも吐くことを意識しておこなってください。ポイントとしては腹式呼吸で呼気は吸気の2倍以上の時間でおこなうと良いでしょう。吐く時に息を全て吐き切ることも大切です。

また人前で話をしなければいけない時などはゆっくり話すということを心がけてください。早口になるということは呼吸が浅くなっているということです。話と話の間に一呼吸入れることを意識しながら話をしましょう。

セロトニンを活性化するには

以前植物の記事やトレーニングの記事で紹介した落ち着きや平常心をもたらしてくれるセロトニン。セロトニンには他の脳内物質を調整する働きがあります。ということはセロトニンが適切に働ける状態を作っておくだけで過緊張はコントロールできるということになります。

朝日を浴びることでセロトニン神経は活性化します。セロトニンは午前中に多く作られ、夕方から日没頃にセロトニンを原料といて睡眠物質であるメラトニンがつくられ始めます。またリズム運動も大切です。リズム運動とはウォーキングやジョギングなどの単純動作を繰り返す運動になります。咀嚼もリズム運動のひとつなので朝起きて朝日を浴びながら朝食を取るだけでセロトニンを活性化することができます。


皆さんはトリプトファンというアミノ酸をご存知でしょうか?トリプトファンは必須アミノ酸で他のアミノ酸から誘導することができません。穀物、乳製品、豆類など様々な食物に含まれていますがここで一つ注意することがあります。それはトリプトファンは「脳に移行しづらい性質がある」ということです。また肉類にも多くトリプトファンが含まれていますが、動物性タンパク質はトリプトファンの脳内への移行を阻害してしまいます。植物性タンパク質から摂るように心がけましょう。さらに脳内に移行するには「糖質」が必要不可欠です。糖質とトリプトファンを同時に摂ることで脳内に効率よくトリプトファンが吸収されます。

ノルアドレナリンのコントロール

ノルアドレナリンとは「逃走」か「闘争」かを判断する物質になります。限界状況から自身を救ってくれる危機回避のための緊急物質になります。ノルアドレナリンが分泌されると脳が研ぎ澄まされて集中力が高まり判断力も高まります。同時に記憶力、学習能力も高まります。
緊張している時はノルアドレナリンが出ている状態になります。ノルアドレナリンの分泌=緊張と言い換えてもいいでしょう。つまり緊張と言うのは「生きるために絶対に必要なものであり、自身の最高のパフォーマンスを出すための準備状態」が緊張の正体だということです。そしてそれを現実化するのがノルアドレナリンということになります。

ノルアドレナリンとアドレナリンの違いは?

皆さんはアドレナリンという物質は聞くことが多いと思うんですが、ここでこの両者の違いについて触れたいと思います。これら二つはチシロンという栄養素から作られ構造式も似ています。体に起こる作用も似た部分が多いです。1番の違いは受容体の分布でノルアドレナリンの受容体はほとんどが脳内にあり、アドレナリンの受容体のほとんどは心臓や筋肉など体全身にあるということです。
緊張する場面で脳内に働いて集中力を高め、瞬時に正しい判断をするようにサポートするのがノルアドレナリン、心肺機能を高めて体全身に血液を送り、筋力を増強して身体機能を高めてくれるのがアドレナリンと覚えておくと良いでしょう。

過緊張の状態とは

では今度は人が過緊張の状態になっている時、体や脳内はどうなっているのでしょう。その部分を説明していこうと思います。まず大前提に基本的に人間はわからないことに対して不安や恐怖を覚えます。何が起こるかわからない未来に対して不安を感じます。それらは過去の経験から生まれます。過去の記憶、失敗の経験があるからこそまた同じ失敗をしてしまったらどうしようと未来が不安になってしまいます。人間の脳は現実とイメージを区別できないと言われています。脳内では現実においても想像においても同じ神経細胞が反応します。つまり実際には起きていないことも想像しただけで脳内では同じ反応が起こってしまうということです。

また脳には扁桃体と呼ばれる部分があります。ここは主に危険・安全、快・不快を判断する所です。また扁桃体の反応は早く誤判断しやすいという性質があります。扁桃体が危険や不快と判断するとストレスホルモンが分泌されその結果血圧や心拍数が上がったり、筋肉が緊張したりと自律神経の乱れが出てしまうのです。つまり頭の中で未来を想像し、過去の経験や失敗から不安を感じ、起こっていないことをあたかも起こったことのように脳が判断してしまう。それによって扁桃体が過剰に反応した状態、これが過緊張の正体になります。


扁桃体と前頭前野の関係性

脳内には扁桃体と前頭前野と呼ばれるところがあります。扁桃体は情動・反射・不正確で緊張や不安を感じるところで、前頭前野は理性、コントロールができ、正確、思考、判断をできるところになります。脳の正常な状態とは扁桃体で瞬時に判断したことを前頭前野が理性的に正確に判断し、自身をコントロールしている状態が本来の正しい脳内の働きになります。

緊張の4条件

ではそもそもなぜ人は緊張するのか?それには4つの条件があると言われています。
それは①衆人監視(人に見られている状態) ②自分をよく見せたいという気持ち ③勝負事。勝ち負けがはっきりと出る状況 ④人生を左右するような大きな出来事。

この4つが複数入っていることで人は緊張すると言われています。


緊張をコントロールする方法

ここまでは緊張の正体、緊張と過緊張の違い、脳内で起こっていることなどを書いてきましたが、ここからは緊張をコントロールする方法をいくつか紹介していこうと思います。

  • しっかりとした準備をする

人間が不安になるときの多くが準備不足です。スポーツであれば体の準備、会議であれば資料の準備などを徹底して行う必要があります。これだけ準備したから大丈夫と思うことができれば準備に対して不安を感じることは少なくなります。

  • イメージトレーニングをする

先ほど脳は現実とイメージを判断できないと書きましたが、それは逆にいうと良いイメージを持つことができれば良い緊張状態を自分で作ることができるということでもあります。スポーツ選手が試合前に自身の良いプレーや映像をみて試合に挑むのも良いイメージを持つための手段の一つです。

  • ルーティーンを作る

脳のキャパシティはたったの3つだと言われています。つまり人間の脳内で同時に考えられることはせいぜい3つまでということです。スポーツなどでルーティンを大事にしている選手が多いですが、考えることをルーティーンに集中することで余計なことを考えないようにしているからです。

  • 心の向きの切り替え

緊張する時にほとんどの人が意識が自分方向に向いています。スポーツなどで相手と対戦しているのに意識が自分に向いている状態、自分と勝負している状態で勝負しても良い結果が生まれることはほぼないと言っていいと思います。以前アスリートの運動機能向上の記事で書かせていただいた意識を外すということが大切になってきます。自分から意識を外して自分以外の何かに意識を持っていくよう心がけましょう。そして我欲を捨て自分ではない誰かのために、また自分が見られているという感覚から自分が見ているという意識にすることも大切です。

  • 感謝する

人は感謝することでセロトニンやエンドルフィンなどの脳内物質が出ます。またポジティブの感情とネガティブの感情は共存しません。「楽しい」という感情と「過緊張」は共存しないのと同じで「感謝」と「過緊張」も共存しません。

  • 神頼み

冗談と思うかもしれませんが、本当の話です。心理学的に「願望」や「目的」を公言した場合と、誰にも言わなかった場合では公言した場合の方が目標が達成しやすいと言われています。これを心理学では「予言の自己成就」といいます


最後に

いかがでしたか?今回はスポーツや仕事などで起こる「緊張」について書かせていただきました。ただ文字にしてみて改めて感じたのは、自分の心をコントロールすることは文字で書くほど簡単なことじゃないということです。私自身もアスリートとして多くの大会、試合に出てきましたが頭ではわかっていてもどうしてもマイナスなことを考えたり、あまりのプレッシャーにその場から逃げ出したくなったりしたこともあります。若いころはそれほど感じていなかったプレッシャーも、誰から言われたわけでもないのに求められることが多くなってきているような気がしてそれに答えようと自分で自分にプレッシャーをかけてしまったり。また年齢を重ねていくとこれが最後のチャンスかもしれないと思うことも多かったです。そんな中でも自分と向き合い、毎日やり残したことがないようにやりきったと思えるように日々準備をしてきました。なので緊張と向き合うということはそれくらい難しく、アスリートや多くの人にとって永遠の課題だということです。この記事を読んで緊張するのは自分だけじゃないんだと少しでも心が軽くなる人がいてくれたら幸いです。。。


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